読者の３割は「選挙で新聞記事を参考にした」と答えず

『ザ選挙』編集長　高橋茂

新聞広告共通調査プラットフォーム「J-MONITOR」による17紙共同「衆議院議員選挙に関する調査」結果が発表された。
http://www.j-monitor.net/news/2015/7279/

この調査をもとにして加盟新聞社では以下の様なタイトルで記事が掲載された。
昨年衆院選、読者の７割が新聞を参考に投票（読売新聞）

衆院選:新聞読者の８３％「投票」（毎日新聞）

これらは「J-MONITOR」サイトにトピックスとして掲載されたもので各社のオリジナル分析ではなく、タイトルも「J-MONITOR」サイトに掲載されたものだが、並べてみると「新聞読者は投票率が高く、新聞記事を参考にしている」となる。

しかし、逆に「読者の３割は新聞を参考にしなかったのか」とも読み取れる。この設問は複数回答が可能なので、新聞読者で少しでも記事を参考にしたのであればそう答えれば良く、７割は少ないのではないかとも思えるのだ。

上記記事では、「新聞読者の間ではネット選挙が普及していない」とも結論づけられている。アンケートを見ると、ここで言う「ネット選挙」とは「政党・候補者のサイト」「SNS」などを示しているが、そもそもネット選挙運動解禁というのは、今まで認められていなかった選挙期間中でのインターネットによる情報発信が認められたというものであり、解禁されて１年半。衆院選としては初めてのケースなので、むしろスタートラインであったと考えるべきだろう。そんなネット活用でも興味深い傾向が見えている。

たとえば、アナログ世代の60代を見ても、「政党や候補者のサイト」を参考にした人が6.0%あるのに対し、一本作ると10億円以上かかると言われるテレビCMを参考にしたのはなんと3.2%、ラジオCMに至っては0.3%となっている。新聞読者にとっては「テレビやラジオのCMは効果が無い」と結論付けられるわけで、J-MONITOR連絡協議会に加盟している電通や博報堂にとっては明らかにしたくない結果となってしまっている。

おそらく、テレビCMやラジオCMは、いわゆる「B層」に有効だと言いたいのだろうが、それを定義付けてしまうと「B層は新聞を読まない」となってしまうので、ここではあえて触れたくないのだろう。データとしても不十分だ。

※B層とは「主婦と子供を中心した層、シルバー層」を含み、「具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを支持する層、内閣閣僚を何となく支持する層」のこと。IQが比較的低いと言われる。（Wikipediaより）

もう一つ興味深い調査結果がある。それは各世代を通じて、60代が一番新聞社のニュースサイトを参考にしているということだ（20.4%。全体平均は13.3%）。いったい新聞社のニュースサイトの何を参考にしているのかわからないが、この調査自体がウェブで行われているため、「新聞を購読していてインターネットも使える60代」からすると、投票の情報源としては決して低くないと言えるだろう。

すでに「老人向けメディア」化してきている紙新聞だが、今後ますます購読者が減っていった場合、当然のことながら新聞記事を参考にする割合は減り（60代の80.5%に対し20代は56.6%）、政党や候補者サイトの重要度は増す（60代の6.0％に対し20代は7.4%）。

J-MONITOR加盟17社は、このデータをさらに細かく分析し、今後の対策を立てていくのだろうが、「読者の7割は新聞記事を参考にしているので、もっと新聞に広告を出しましょう」というネタに使われてしまうだけであれば、新聞の実質購読数の減少とともに広告出稿費も減るということを暗に認めることになる。

当記事では、わざと少しひねくれたタイトルを付けた。それに比べると新聞記事のタイトルは新聞社にとって明るい材料のように見える。新聞記事が衆院選に有効なのはわかったが、年代別の傾向とそもそもの新聞購読数の減少を加味することによって、それは新聞業界にとっての危機を感じさせることにもなる。

筆者：高橋茂
『ザ選挙』編集長。電子楽器のエンジニアから2000年の長野県知事選挙を経て、政治家の情報発信の専門家となり現在に至る。株式会社VoiceJapan代表取締役、株式会社世論社代表取締役。武蔵大学社会学部非常勤講師。政治家やNPOなどの活動サポートの傍ら執筆、講演など活動は多岐にわたる。
現在、Facebook上にて会員制オンラインサロン『ザ選挙サロン』を運営している。