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選挙がめんどくさい。(小池みきの下から選挙入門①)

2015/8/3

小池みき

小池みき

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ジャカジャカと蝉の鳴き立てる7月某日、私は麹町のとあるビルに拉致されていた。

当方、列島のどこにでもいる、売れない28歳のフリーライターである。人に誇れるような人生ではないが、貧しいながらも税金を納め、それなりに選挙にも行き、どうにか犯罪には手を染めずに生きてきた。若者の婚姻率低下には加担しているものの、拉致監禁に値するほどの罪悪ではないと思う。

波乱の身を嘆きつつ、戦いにそなえて指の間に十円玉を挟んでいると、私を拉致した当人であるタカハタ総統(選挙ドットコム株式会社代表取締役CEO)が現れ、おもむろにこう言った。

「小池さん、選挙についてなんか書いてくれませんか」

なんと、これは仕事依頼であったのだ。しかし、だとすれば相手を間違えている。私に政治のことはわからぬ。私は田舎出の売文業者である。暇さえあればホラを吹き、猫と遊んで暮らしてきた。その上、ニュースに対しても人一倍鈍感であった。正直に言えば、選挙だって毎度「嫌だなあ」と思いながら行くのである。出張やら引っ越しやらを理由に行かなかったことも2度かそこいらある。

数年前に「選挙に行かない男と、付き合ってはいけない5つの理由」という記事がWEB上で話題になったことがある。ここに書かれたことを女性に当てはめてもいいのであれば、前日投票すら活用できていない私は職場における存在価値も未来も無いカスであり、私と付き合っている男は即別れた方がいいのである。いないけど。

選挙を「嫌だなあ」と思う理由。それは、候補者の発言を逐一調べ、最寄りの小学校に行き、最良の選択と思う御仁の名前を紙に書く、という一連の行動がおっくうだから、ではない。そのくらいはいくら怠惰な私でもできる。そうではなくて、「選挙」をとりまく人々の色んな正義感やら、選挙カーのうるささやら、そういうものがなんとなく、モヤモヤっと嫌なのだ。

例えば「自分は選挙には行かない」という意見がある。作家の村上春樹氏もエッセイにそう書いていたことがある。私はそういう発言を聞いても「そうか」と思うだけなのだが、これに対して「選挙に行かない人間は国民失格」「選挙に行かないなら何が起きても一切文句を言うな」などの極端な批判が向けられたりする。かと思えば、TwitterやFacebookで「選挙に行った」と書き込んでいる人のことを「意識が高いw」などと揶揄する声もある。

そういうもろもろのことを嫌だなあと思っていると、「自分が政治に関わる一国民だという自覚をちゃんと持っていれば、嫌だなんて思わないはずだ」という声がどこからともなく聞こえてくる。選挙は、政治参加の手段の筆頭なのだ。こんなことでため息をつく私には社会人としての自覚が足りないのだ。なんて、自分を諌める自分がこれまた面倒くさい。

私とて、自分の仕事を通してなるべく社会貢献をしたいという気持ちはある。しかし、「世間様」が求める「正しい有権者」としてのラインはそれよりももっと高いんだろうな……と、こと選挙などのタイミングには思う。「うっかり行きそびれた」は白い目で見られるし、行ったことをむやみにアピールするのも見苦しく、「選挙に行くべきだ!」と説教するのは押し付けがましい。結局、黙っているに限るのだ。黙っていれば、選挙に行こうが行くまいがバカだろうがバレないのだから。

偽らざる気持ちとして、私はそのようなことをまくしたてた。しかしタカハタ氏は食い下がる。投票率のどんどん下がっている昨今、私のような「意識の低い」人間の方がマジョリティと言ってもいいくらいの状況なのだから、そういう人間の目線で何か書いてほしい、ということらしい。

確かに総務省のデータによれば、平成26年度の20代の投票率はわずか32.58%、60代の68.28%の半分以下である。

衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移

なんとも情けない話ではあるが、「選挙なんてどうでもいい」「行かなきゃなとは思うけど、万難を排して駆けつけねばとまでは思えない」という人の気持ちも私にはよーっくわかる。だからこそ黙っていたいのである。が、タカハタ総統は「だからこそお前が何か言え」と迫るのであった。

ちなみに、氏は十円玉を挟んだ拳で殴っても倒れなさそうな屈強な肉体の持ち主である。我々の間にどのような攻防があったかは伏せるが、結局私は承諾した。

タカハタ総統「じゃ、さっそく明日は朝9時に浦和駅に行ってもらいますんで」

小池「(はずれた肩を戻しながら)え、なんでですか」

タカハタ総統「明日、埼玉県知事選挙の街頭演説第一声があるんですよ。どうせ街頭演説とか一から聞いたことないでしょ? いい機会だから全部見てもらいます」

小池「えっ……」

選挙ドットコムは、「選挙をもっとオモシロク」することを使命として運営されているという。選挙が面白いなんて思ったことのない私が、選挙について書いたりしていいのだろうか。大丈夫なのだろうか。

不安はつきないが、Yahoo!乗り換えで浦和駅への行き方を調べることにする。

 

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小池みき

ラ イター・漫画家。1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合 のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。

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