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そもそも選挙運動ってなんだ!?(小池みきの下から選挙入門⑧)

2015/8/26

小池みき

小池みき

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民主主義の根幹たる公正な選挙を守り、執行するために存在するのが選挙管理委員会だということが前回の話でわかった。しかしこの期に及んでもまだイメージのあいまいなところは多い。

公職選挙法違反の選挙運動や政治活動の規制に抵触するのが選挙違反だ。それはわかる。例えば、立候補者が、選挙運動の中で有権者に金を渡し、「俺に入れてくれ」などと言ったら完全に買収である。公職選挙法にも、「買収及び利害誘導罪」として罰則の対象になることが明記されている。

でも、そもそも「選挙運動」って何なのだろうか。私のイメージ上には、この間見に行った埼玉県知事選挙のような、「選挙カーで町をねりまわして名前を連呼する」てな光景しか浮かばない。

【小島氏】
「そこは皆さん疑問に思うところでしょうね。よく言われているのが、選挙期間外に選挙運動をするのは駄目だが“政治活動”なら良いってこと。でもその二つの違いは? 選挙運動ってそもそもなんでしょうか? って聞くと、政治に詳しい人でも意外と答えられなかったりするんです。簡単に説明すると、選挙運動だと言えるためには今のところ三つの要素が必要となります。選挙の特定、候補者の特定、そして候補者が得票を得るのに有利な行為。この三つが揃うと選挙運動になる。ただ、選管的立場から言えば、ある行為がこのうちの二つがあればもう選挙運動にあたるおそれが垣間見えるので、状況に応じて『差し控えてくれ』などの注意を促すことになります」

【小池】
「じゃあ、政治活動っていうのは?」

【マツダ参謀長】
「広義の政治活動の定義は、『政治上の目的をもって行われるいっさいの活動』です」

小池】
「それなら選挙運動も政治活動ですよね? 政治上の目的があるんですから」

【マツダ参謀長】
「そうです。ただし、公選法上の取り扱いとしてこの『政治活動』と『選挙運動』が明確に区別されています。実はさっきの『広義の政治活動』から『選挙運動』にわたる行為を抜いたものが『政治活動』なんですよ」

冒頭のイラストを見ていただきたい。でかい丸が「政治活動」。そこから引っこ抜いた小さい丸が「選挙運動」である。二つをまとめて政治活動と呼ぶこともできるが、公選法上で「政治活動」と言った時は、絶対に「選挙運動」を含まない。

【小池】
「意外と細かいんですね。そもそも『選挙運動』の定義ってのも公職選挙法に書かれているんですよね? そうじゃないと、広義の政治活動から何を引っこ抜いたらいいかわかんないし」

【マツダ参謀長】
「いやそれが、どうしてそうなのか分からないけど選挙運動の定義は公選法には書かれていません。書いてあった方がいいと思うんだけどね。今我々の間で共有されている選挙運動の定義は、実は大審院と最高裁が出した判例の援用なんです」

【小池】
「大審院?? それってめっちゃ大昔じゃないですか?」

大審院といえば、明治天皇が立憲政体の詔書を出したときに、元老院なんかと一緒に作られた機関である。最高裁判所の前身的存在だ。

【小島氏】
「まず、『選挙運動』っていう言葉自体は、公職選挙法に出てくる法律用語ですね。そしてその選挙運動の定義の内容については、大審院による昭和3年の判決、及び最高裁による昭和38年の判決などを根拠に、導き出された定義が通説とされている状態です。学者の世界でいうと、美濃部達吉が選挙運動の定義をしているんですどね……美濃部達吉ってわかる? 天皇機関説の」

【小池】
「あ、懐かしい名前。テストで書きました。あの美濃部達吉が選挙運動の定義をしているんですか? 知らなかった!」

日本史を学んだ人なら、美濃部達吉の名前も記憶にあるだろう。戦前に活躍した憲法学者だ。統治権は天皇にあるとする天皇主権説に対して、統治権自体は国家に属するとしたのが天皇機関説である。この考え方は軍国主義の台頭の中で激しく批判され、美濃部の著書は発禁の憂き目に合ってしまう。この「天皇機関説事件」のイメージが強い美濃部だが、実は選挙についての論考も多数残しているのだそう。私はもちろん読んだことがない。

小島氏は本棚から一冊の本を取り出し、テーブルまで運んできてくれた。茶色く変色した、ボロボロの古書である。

『選挙法詳説』美濃部達吉

※中身は近代デジタルライブラリーで全て読むことができる。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267347?tocOpened=1

【小島氏】
「これが美濃部達吉の『選挙法詳説』。公職選挙法ができる前、つまり衆議院議員選挙法(明治22年に公布された選挙法。帝国議会総選挙のために作られた)の時代の昭和23年に書かれた本だけど、今読んでも面白いですよ」

【マツダ参謀長】
「本当だ。今にも通じるようなことが色々書かれてますね」

【小島氏】
「そ。古いから駄目だっていうわけじゃないんですよ。温故知新、故きを温ねて新しきを知るのっていうのも、こういう仕事にはとても大切です」

【小池】
「ハイ……」

ベテランの先生の発言に、学生時代のような感覚に戻る小池であった。

【小池】
「あのですね、ちょっと思ったんですけど、『選挙運動』の概念が法解釈を基準にしているんだったら、人によっては違う解釈で動いてしまうこともあるんじゃないですか?」

【マツダ参謀長】
「ありますよ。地域によって『ここまでOK』の基準が違ったりしますから」

【小池】
「え、選挙運動に“お国柄”が?」

どんなお国柄があるのかは、また次号。

 

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小池みき

小池みき

ラ イター・漫画家。1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合 のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。

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