選挙の公正性を守るために存在する公職選挙法。しかし、その細かな内容を、私のような政治にうとい一般人が知る機会はほとんどない。ちょっとかじっただけでは複雑怪奇にしか見えない公選法だが、実際に、解釈の幅も広いようだ。
【マツダ参謀長】
「公職選挙法って『べからず法』って呼ばれたりするんですよ。『○○することができない』っていう文言が多いから。有名なところだと『何人も、選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて戸別訪問をすることができない。』とかね。」
【小池】
「『ボール遊び禁止』『大声禁止』『花火禁止』『ペットの連れ込み禁止』って禁止事項だらけになっている公園のようなものですね」
【マツダ参謀長】
「そう。理念として、お金持ちもそうでない人も公平に選挙を行えるようにというのがあるので、やってもよさそうなことを変に制限しているところがある。で、明確に制限されていないことの解釈の幅が意外と広い。それによって、一種の“ローカルルール”が作られてしまう部分もあるんですよね。例えば選挙運動というと、候補者が名前入りのたすきと手袋をつけて街頭演説に立っている光景を小池さんも思い浮かべるでしょう。あのたすきは、告示・公示されてから投票日前日までの、選挙運動期間にしかつけられないものなんです。それ以外の時期につけていると、法定外の政治活動用の文書図画の掲示であるとか、告示直前の時期だとこれに加えて氏名の普及宣伝による事前運動として違反にあたる可能性が強い」
【小池】
「まあそうでしょうね」
【マツダ参謀長】
「ところがですね、大阪なんかでは、候補者が告示前からばんばんたすきをかけて駅頭に立っている」
【小池】
「え、それって違反になってしまうのでは……」
【マツダ参謀長】
「大阪の人に聞いたら、『これは名札だから問題ない』って言うんですよ。話している人間が誰かわかった方が聞く人にとっていいだろうとか言って(笑)」
【小池】
「な、名札!!」
それは……ありなのだろうか。
【マツダ参謀長】
「実は公選法には、『選挙前にたすきをつけてはいけない』とは書かれていないんです。これが『べからず法』のややこしさですね。『顔と名前が入っているものを有権者に対してみせるということは、選挙を有利に働かせるために顔と名前を売ろうとしていると判断される=選挙運動の可能性が高くなりますねえ』っていうところから判断が始まるから、日本中をまったく同じ基準で揃えることは難しい」
それにしても、たすきを名札と解釈するのは大分力技のように思えるが……。
【小島氏】
「去年、大阪のある市議会に頼まれて、議員の日常活動と公選法の関係について話したんですけどね。そこでも、『名前入りののぼりとかたすきっていうのは、実際のところどうなんですか』という話が出ました。あれは一応、公職選挙法143条16項という規定の違反になると考えられます。『候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画』についての項目ですね。また、選挙直前になると、129条の事前運動にも該当すると考えられます。ただ、やっぱり判断の難しい事例は多いです」
【小池】
「うーむ、そうなんでしょうね……私は想像しかできませんが」
【マツダ参謀長】
「公選法を読み込んだ上で、過去の判例や警告事例など、類似の事例から慎重に判断していくしかないですね」
考えてみれば、公選法が制定されたのは1950年のこと。都度改正は行われているが、大枠は60年以上も前に作られているのである。それを今の社会に当てはめれば、解釈も多様にはなってくるだろう。
【小池】
「今の話でいうと、インターネットの使い方なんてのは、それこそ解釈が難しいんじゃないですか? 公選法作った時にはなかったものですし……」
【小島氏】
「そうです。平成25年にインターネット選挙運動が解禁になって、公職選挙法の一部改正が成立しましたから、昔よりは状況が整いましたけどね」
インターネット選挙運動の解禁については私も記憶にある。「随分遅いな」と思ったものだ。何しろ私くらいの世代だと、小学生の時にはインターネットでWEBサイトを見て、中高生の頃にはHTMLをポチポチ手打ちしてサイトを開設していたりする。ようやくの解禁か、と多くの若い世代が思ったことだろう。
【小島氏】
「それまでは例えば、総務省が『選挙公報』(候補者や政党の政見などを記載した広報誌。公費で有権者に配布される)をネット上に掲載してはいけないと言っていたんですよ。改竄される恐れがあるとか、印刷されると選挙運動違反に抵触するとか色んな理屈があってね。でも東日本大震災の後、避難している被災三県(岩手・宮城・福島)の人たちに広く政見を伝える方法はネット以外になかった。そこで、ネットに情報を載せる法律的根拠を公職選挙法第6条『選挙啓発』に求め、特例として掲載にこぎつけたんです。その事例をふまえて、翌2012年から全国的に掲載OKとなりました」
【マツダ参謀長】
「大きな社会的事件が、法解釈の変更を促すというのは色んな分野で見られる出来事です。『べからず』だらけの公選法も、社会情勢やテクノロジーの変化に合わせて、刻々とそのあり方を変え続けているということ」
【小池】
「公選法の内容は理解できないですけど、何が難しい部分なのかはちょっとわかってきました。でも、そうやって適用範囲があいまいなんじゃ、怖くてとても候補者になんぞなれないですね」
【マツダ参謀長】
「そう思われちゃうのが選挙の残念なところだよね。選管に聞いたり自分で勉強すれば、大枠は判断できますから、そこまで怖いものでもないですよ。確かに連座制とか、ちょっと聞いただけだと怖い制度ですけど」
また聞いたことのない言葉が出てきた。恐怖の連座制とは、さてはて。
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