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安保法案をめぐる世論① 法案提出前の状況

2015/9/17

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今井亮佑

果たして安全保障政策の論争は、選挙に影響するのか?

今まさに安全保障関連法案を巡る国会の動向に注目が集まっています。法安に対する世論も4月以降大きく変化してきています。来夏の参院選への影響も避けられないと見られており、選挙ドットコムでは政治学者の今井亮佑氏に、安保法安を巡る世論の動き、そして60年安保とそれ以降の選挙結果との関係について分析記事を寄稿していただきました。

長文により前半「安保法案をめぐる世論」と後半「1960年安保と2015年安保」の全7回に分けて連載していきます。

選挙ドットコム編集部

 

2014年12月14日投票の第47回衆議院議員総選挙に際して自由民主党が提示した公約重点政策集2014の中に、「『国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について』(平成26年7月1日閣議決定)に基づき、いかなる事態に対しても国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備します」(下線筆者)という一項目がある。選挙で衆議院の過半数を大きく上回る290議席を獲得し、35議席を得た公明党との連立政権を維持した自民党の第三次安倍晋三内閣は、2015年5月15日に「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」と「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(以下、2つをまとめて「安全保障関連法案」と呼ぶ)を、開会中の第189通常国会に提出した。総選挙で信を得た以上、公約の実現を図ること自体は、至極当然である。

安全保障関連法案をめぐる世論の動き

少なくとも法案が提出される前の時点では、安全保障関連法案の内容に対して肯定的な意見が国民の間で多数を占めていた。読売新聞社による世論調査の結果を見てみよう。2015年1月末から2月末にかけて郵送法で実施された「憲法に関する全国世論調査」における質問および回答の分布は次のとおりである(2015年3月23日付朝刊より引用)。

■ 戦争を放棄し、戦力を持たないとした憲法9条をめぐる問題について、政府はこれまで、その解釈や運用によって対応してきました。あなたは、憲法9条について、今後、どうすればよいと思いますか。1つだけあげて下さい。

-これまで通り、解釈や運用で対応する・・・・・・・・・・・・・40%
-解釈や運用で対応するのは限界なので、9条を改正する ・・・・・35%
-9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない ・・・・・・・・・20%
-その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1%
-答えない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4%

■ 日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利、「集団的自衛権」についてお聞きします。政府は、憲法解釈を見直して、国民の権利が根底からくつがえされる明白な危険がある場合に、集団的自衛権を必要最小限の範囲で使うことができると決めました。集団的自衛権を限定的に使えるようになったことを、評価しますか、評価しませんか。
-評価する・・・・・・・・ 53%
-評価しない・・・・・・・45%
-答えない・・・・・・・・2%

前者の質問に対する回答の分布を見ると、「9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」という教条主義的な立場をとる人は20%に過ぎず、むしろ、「これまで通り、解釈や運用で対応する」(40%)、「解釈や運用で対応するのは限界なので、9条を改正する」(35%)といった柔軟な立場をとる人が大多数を占めることがわかる。戦後70年の間に生じた国際環境の変容、とりわけ冷戦の終焉やそれに伴う国際政治のパワーバランスの変化という現実を前に、解釈改憲や文字通りの改憲で対応する必要があると多くの国民が考えていることがうかがえる。

一方、集団的自衛権の行使を限定的に容認するとした閣議決定への評価をより直接的に尋ねた後者の質問に関しては、「評価する」という意見(53%)と「評価しない」という意見(45%)とが拮抗しているものの、肯定的な意見がわずかに上回っている。

下に示すのは、3月6日から8日に、「コンピューターで無作為に作成した番号に電話をかけるRDD方式」で行われた定例の調査における、海外での自衛隊の活動に関連する質問の結果である(2015年3月9日付朝刊より引用)。いわゆる後方支援活動の拡大には肯定的であるが、PKOなどでの武器使用の拡大には否定的である様子が読み取れる。

■ 政府が、今の国会に提出する予定の、安全保障関連法案に関連してお聞きします。

□ 自衛隊を海外に派遣する場合、その都度、期限を定めた特別な法律を作るのではなく、迅速に対応ができるようにする、いわゆる「恒久法」を整備することに、賛成ですか、反対ですか。
-賛成・・・・・・・・ 42%
-反対・・・・・・・・ 42%
-答えない・・・・・・ 16%

□ 日本の平和と安全に重要な影響を与える事態が起きた場合、自衛隊が、アメリカ軍だけでなく、他の国の軍隊にも、補給や輸送などの後方支援をできるようにすることに、賛成ですか、反対ですか。
-賛成・・・・・・・・ 56%
-反対・・・・・・・・34%
-答えない・・・・・・ 10%

□ 国連のPKO、平和維持活動などに参加した自衛隊が、武器を使える権限を、今よりも拡大することに、賛成ですか、反対ですか。
-賛成・・・・・・・・36%
-反対・・・・・・・・54%
-答えない・・・・・・10%

>>「安保法案をめぐる世論② 法案に対する賛否」へ続く

 

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今井亮佑

1977年京都府生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。現在早稲田大学現代政治経済研究所主任研究員。主な論文に「国政選挙のサイクルと政権交代」(『レヴァイアサン』第47号)、「選挙動員と投票参加―2007年〈亥年〉の参院選の分析」(『日本選挙学会年報 選挙研究』第25巻第1号)など。

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