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「18歳を選挙に行かせる」前に必要な「そもそも」(小池みきの下から選挙入門 .19)

2015/10/23

小池みき

小池みき

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日本選挙学会理事長・岩渕美克(いわぶちよしかづ)先生に、選挙制度の根本を教えてもらうインタビュー第三回。日本中でたくさん行われている選挙それぞれの違いは、「それがいったい『どういう人』を選ぶための選挙であるか」だ――その説明の意味が少しずつわかってきた。

私のような政治リテラシーの低い人間には、衆議院議員と参議院議員、県知事と市長、県議会議員と市議会議員などなどの違いが、「漢字の違い」以上にはよくわからなかったりする。「よくわかんないけどみんな政治家なんだし、まぁ似たようなもんだろ」、という感覚なのである。選挙でも、「とりあえず偉いポジションに置いてもいいような感じの人を選ぶ」「名前や顔をよく知っている人を選ぶ」ことになりがちだ。

でも当然ながら、実際は「似たようなもん」ではない。それぞれ別の目的を持って存在しているし、だからこそ選挙方法が異なるのだ。それを理解して人選・投票するのとそうでないのとでは、当たり前だが「そのポストに相応しくない人間をそこに選んでしまう可能性」が格段に違う。

【小池】
「これって、国会議員に選ぶべき人と、市長として選ぶべき人は別物ってことなんですか? 大は小を兼ねる式というか、国>県>市って感じで、単純に国会議員ができる人は県知事もできるし県知事ができる人は市長もできる、ってことではないと」

【マツダ参謀長】
「はい、そもそも国政は議院内閣制で、地方は二元代表制です。選挙の仕方も、政治の仕組みも違います。地方選挙というのは国政選挙のミニチュア版のように見られてしまいがちだけど、実際はまったく違う組織の違うトップ(あるいは構成員)を選ぶ行為なんです」

【岩渕先生】
「だからこそ、地方選挙で国政の問題が一番の争点にされたりするのもどうかと思いますよね。地方選挙を、国政についての民意を確認する場にされてもなあという」

【小池】
「ぬ、地方選挙で国政の問題が争点にというのは……」

【マツダ参謀長】
「例えばこの間の山形市長選挙では、安全保障関連法案が一番の争点としてやたら強調されていたんですよ。事実上、安保法案賛成派である自公推薦の立候補者と、反対派である野党推薦の立候補者の一騎打ちだったからなんだけど。『ここで自公推薦が勝てば、安保法案は民意を得たということになる』みたいな報道がとにかく多くて……。でも、実際あれは『山形市長』を選ぶ選挙ですからね。もちろん国政と地方行政は無関係ではないけど、市民が『山形市政のあり方』についてもっと議論を深められるような情報発信の仕方があるんじゃないの、と僕なんかは思います。地方選挙の仕事が多いので」

【岩渕先生】
「国政だけじゃなく、地方選挙も本当は一緒に見直すべきなんですよね。県知事と参議院選挙は選挙区がほぼ一緒。都道府県会議員と市町村議会議員も大分かぶってる。その中で、地方政治だの地方議員だののいったい何たるかが誰にでもわかるか、といったらやっぱり無理がある。特に来年からは18歳選挙権が施行されるわけですけど、18歳の子にそれを理解させるためには、中学生くらいからきちんと情報を与えていかないと無理だろうと思いますよ。戸惑っちゃいますよ、18歳じゃあ」

来年、2016年夏の参院選から、選挙権は18歳まで引き下げられる。選挙の年齢制限が変更となるのはなんと70年ぶりのことだ。18、19歳の約240万人が新しく選挙権を持ち、政治活動も行えるようになる。

【岩渕先生】
「総務省と文科省が、18歳選挙権の施行に向けて有権者教育の副読本を作りましたけど、それだけじゃ駄目ですよね。18歳というとどうしても“高校生”に注目が集まりがちですが、実際は高校生だけではなく大学生も専門学生もいるし、もう勤めに出ている人もいる。私たち大学側は、主権者教育の講座を大学のカリキュラムに導入する動きを進めてます。選挙云々より、まずは政治自体に関心を持ってもらわないと」

【マツダ参謀長】
「そういう根本の議論は確かに足りていませんね。現状の選挙制度って不備が多くて、住民投票とか今回の安保法案反対デモやなんかにも、そもそもその不備を補完している側面があると思うんですけど、なかなかそういう見方で語られることはない。単なる右だ左だ中立だ、って話になってしまう」

【岩渕先生】
「右の人が『左翼は馬鹿だ』と言い、反対側では左の人が『右翼は横暴だ』と言うんだけど、結局向かい合って罵り合う人たちは誰も法案をちゃんと読んでいなかったりしてね(笑)。今回、安保法案を巡る動きの中では学生団体SEALDsの言動が賛否両論を呼びましたけど、若い人たちが政治に関心を持ち始めた、選挙の重要性にも気づき始めた、っていう点はいいことですよ。何もわからないまま参加しました、なんて人にもこれを機にちゃんと勉強してもらえばいいなと思いますね。大学の人間としては」

私が18歳だったのはちょうど10年前、2005年のこと。衆院選で、郵政民営化をスローガンに掲げた自民党が歴史的大勝をおさめ、愛知万博が開催され、『ドラえもん』の声優陣が入れ替わった年だ。私は地元名古屋にてひたすらアルバイトに邁進しており、万博にも政治にも無関心だった。多分その頃「選挙に行け」と言われても行かなかったと思う。どんなきっかけがあれば政治に関心を持っただろう――。

WEBの端っこでこんな記事を書いている身として、そう考えずにおれなかった。

 

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小池みき

小池みき

ラ イター・漫画家。1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合 のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。

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