日本における選挙研究の粋が集まる、日本選挙学会の理事長・岩渕美克(いわぶちよしかづ)先生へのインタビュー第四回。
今までのどの取材相手の時にも痛感させられたことだが、選挙とは、「選挙」のみで切り出して考えたり、あるいは考えさせたり、関心を持たせたりするのが極めて難しい(というか無理のある)営みだ。選挙について考えるということは、この国にとって選挙が必要なわけ――つまり民主主義というあり方について考えることに他ならないからだ。
かといって、私のような無知無学のかたまりが、「もっと深く選挙制度を理解しよう!」などと思いつき、いきなり日本選挙学会の公式サイトで報告論文ページにアクセスするとこういうものを目にすることになる(https://www.jaesnet.org/archives/report-archives/)。
「投票価値の較差をめぐる選挙無効訴訟:最高裁の対応と統治機構のあり方論」西山千絵(沖縄国際大学
「政策争点に関する情報提示が異なる意見を支持する他者の寛容性に及ぼす影響:オンラインサーベイ実験を通じて」横山智哉(一橋大学大学院)
「分離可能指数による一票の平等の研究」和田淳一郎(横浜市立大学)・鎌原勇太(横浜国立大学)
うん、人間無理をするものではない。
【小池】
「うーん、選挙の世界って、ものすごく多岐に渡るテーマで、色んな方が日夜研究を重ねてるんですね。日本は選挙研究が進んでいなかったって仰ってましたけど、これでもまだまだなんでしょうか」
【岩渕先生】
「そうですねえ……。例えば日本では、供託金の研究なんかまだまだ全然されてなかったりします。今僕のところで一人、これから供託金の研究をしようっていう変わり者がいますけどね」
【マツダ参謀長】
「出ましたね、世界一高額な供託金」
【小池】
「供託金とは? 世界一高いってなんですか?」
【マツダ参謀長】
「供託金というのは、選挙に出馬する人が納めるお金のことですよ」
【小池】
「ふーん、選挙にも手数料みたいなのがあるんですか。おいくらなんです?」
【マツダ参謀長】
「選挙によって違うんですけど、都道府県知事や衆議院・参議院の選挙区選挙で300万円。比例区だと600万円」
【小池】
「高ッ!! 300万あったら一年間暮らせますよ」
【マツダ参謀長】
「高いですよね。世界一高額だと言われています。しかも供託金って、その立候補者の得票数が、一定の割合を超えない場合は没収されちゃうんです」
【小池】
「うげえ、じゃあ派手に落選したら300万円を捨てることに……」
【岩渕先生】
「これはつまり、冷やかしの立候補に対する抑止力として設けられてるんですけどね。本当に抑止力になっているのかどうか、って言ったらねえ(苦笑)」
【マツダ参謀長】
「なってないですよね(苦笑)」
【小池】
「あのー、また二人だけで理解されてますけど、私にもわかるように言ってください」
【マツダ参謀長】
「例えば東京都知事選挙って、多い時は15人以上立候補してるんですよ。多くは泡沫候補で、1%も得票できずに落選している。供託金さえ納めれば立候補は出来てしまうので、冷やかしの抑止になっていないんですよ。
一方でこの高額の供託金によって、お金のある政党でなければ候補者を擁立することができず、党勢を拡大することもできないんです。たとえば2010年の第22回参議院議員通常選挙のとき、みんなの党は選挙区21人・比例区23人の44人を公認して、当選したのは選挙区が3人、比例区が7人でした」
【小池】
「えーとえーと、44人立候補ってことは供託金だけで2億円以上!?ヒエーッ」
【マツダ参謀長】
「この2億円はあくまでエントリー代金みたいなもので、当選するためにはビラを配ったり、事務所をかまえたり、選挙カーを走らせたりとさらにお金がかかる。これではお金のない党や候補者はどうにもなりません」
【岩渕先生】
「一方で、資金力のある政党、たとえば共産党なんかは、いくら大勢候補者を立ててもいつもそんなに通らないんだけど、それでもとにかく総選挙ではほとんど全ての選挙区で立てようとするわけ。295ある選挙区で候補者を立てて約9億円。そして比例区で重複立候補するので、さらに300万円×295が必要で、供託金だけで約18億円が必要になる」
【小池】
「ウッ……」
【岩渕先生】
「ま、こういう仕組みだと、大政党志向になるのも致し方ないと。別に大政党志向が絶対駄目だとは言いませんよ。ただ日本の場合、前の二院制の話を思い出してほしいんですけど、大政党志向が進むと結局二院制の意味がなくなってしまうんですね。だったら一院制の方がお金の無駄がなくていいんじゃないの、って思っちゃうでしょう。ただでさえ、まともな候補者が少ない、なんて言われてる今日この頃なんだから」
【マツダ参謀長】
「不祥事のニュースには事欠きませんよね」
【岩渕先生】
「本来、政党が候補者を公認する責任は大きいわけですよ。だけど、政党側は不祥事があればとかげのしっぽ切りですませちゃうし、こいつが政治家になって大丈夫なのか、って人でも、今の仕組みだと大きな政党名のもと当選できちゃったりする。そういう全てが一般大衆の政治に対する信頼を左右する、ということを政治側も理解しなきゃいけないんだけどね。これじゃ政治家志望なんか減る一方です」
【マツダ参謀長】
「日本は政治家が尊敬されない職業になってしまっているのが残念ですよね。とにかく大変な仕事ですよ。近くで見ているからこそよくわかりますが、少なくとも僕は政治家にはなりたくないですね。」
【小池】
「私も嫌です。なったら国に損失を与える自信がある」
【岩渕先生】
「おやそうですか。僕は参議院議員になりたいなって常々学生たちに言ってるんだけどね」
【小池】
「えっ。意外です」
【岩渕先生】
「議員会館にソファベッド入れてね、針灸師の友達かなんかを第二秘書にして、疲れたら針打ってもらうんだよ。それで、何もしないで6年間、年収二千何百万もらうっていう算段(笑)」
【マツダ参謀長】
「またまたご冗談を(笑)。でもそう言われると、学生は少し問題意識を持ちますよね。」
【小池】
「それだったら私もできそう(笑)!」
【マツダ参謀長】
「こらこら(苦笑)」
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