「新しいメディアやサービスに何かを期待する」ということ自体、よく考えてみれば、Webが当たり前の存在になってからの慣行かもしれない。
ノウハウも、蓄積も、資本力も劣ることが少なくない、新規事業者や新サービスに期待するのはなぜなのか。具体的な理由を考えてみると、意外と答えに窮するかもしれない。
現に「新しい試み」の大半は、あっという間に姿を変え、なくなってしまう。初期コストが小さくて済むWebサービスやメディアには、そういう事例が多数ある。
その意味では、今回のリニューアルにあたって、もっとも期待したいのはサービスの継続である。ジャーナリズムは、ビジネスとの相性があまりよくないうえに、コストパフォーマンスも高くない。それが大手メディア企業の苦戦の理由であり、新規事業者が登場しにくい理由のひとつであろう。
だからこそ、安定したクオリティで、選挙や政治関連の情報発信サービスを継続していくこと。その点に期待したい。その意味では選挙ドットコムにはこれまでの蓄積があることが、アドバンテージになるのではないか。
もうひとつ、新サービスに期待したいのは、有権者が政治、とくに政局を理解するフレームワークを形成できるコンテンツの提供である。来夏の参院選から、投票年齢が18歳に引き下げられ、世間では高校生に、選挙理解の副教材が「配布」されることをもって、市民性教育の始まりであると見なす傾向が強い。
だが、100ページあまりの教材をきちんと消化できる時間数を確保できるのか、また実際の運用は各学校の裁量に委ねられているが、それでよいのか、教員が原則として政治から責任を問われないようにするルールのあり方なども不透明なままである。
正規のカリキュラムとして、市民性教育が実施されるのは、おそらくは2022年度からの「公共」「歴史総合」の高校での必修化を持って実現すると見なすのが妥当であろう。
政治と教育の独立の観点からして、教育では政治的価値の主題について取り扱うのは相当程度難しいのではないか。おそらく実際には、各政党の歴史を記述、紹介することも難しいのではないかと考えられる。だとすれば、これらは教育というよりは、メディアや言論を通じて、社会に提供されるべきものであろう。その一助になってほしいということである。
都度の出来事に関する報道は、既存の企業やメディア各社も取り組んでいる。他方で、全体の政治や政局の「構図」はなかなか描かれず、有権者からすればその展望を見通すことは困難というほかない。
たとえば、今回の投票年齢引き下げの「構図」は、被選挙年齢や供託金の引き下げ、そしてここまで述べてきた「不十分な市民性教育」の課題に目をつぶりながら、先行して投票年齢の引き下げが行われているということである。ということは、現在の18歳もさることながら、今後相当な期間において、投票は可能だが、(従来と同様に)十分な政治的意思決定に関するウォーミングアップを経ていない有権者が生まれうるだろう。
このような、やや悲観的な予測に抗うべく、データ(分析)や歴史を通して、政治の「構図」と「文脈」が理解できるようなコンテンツ制作と、コンテンツのライセンス提供等を通じて、玄人向けのコンテンツを広く届けられるようなサービスに期待したい。
世界では、テクノロジーが政治を変えようとしているが、日本ではどうにもそのような気配が感じられない。このような政治の閉塞感に風穴を空けられる、新サービスとなることを楽しみにしています!
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